ぽぽあの~んびり?のブログ

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鉄さく小説

きみの魔法に


今は宇宙船の中の自室。窓から見える景色は、当然真っ暗。宇宙だから、当たり前なんだけど、やっぱり怖かった。光がなくって、真っ暗なのが怖いもそうなんだけど、これからの戦いが怖かった。
みんなもそういう気持ちなんだろうけど、耐えきれなかった。
自室を出て、彼の部屋へと向かった。ろうかは、シーンと静まり返り、あたしの足音だけが音を立てていた。めずらしいことに、今日は、明かりがついていた。
彼の部屋の前に来て呼び出そうとして、ドアを叩こうとした。…でも、女の子の声が彼の部屋からしたから、手を引っ込めた。
耳をくっつけて、誰かを探るために、女の子の声を真剣に聞いた。好葉のような、弱気な声でもなくて、みのりさんのような、大人っぽくなくて、元気な女の子なら__葵ちゃん
「…大丈夫だって。そんなに深く考える必要ねーよ。」
「…うん。ありがと、真君。」
「なんで名前呼び?」
「ほら、ノリだよ。夜のノリ。」
「?よくわかんねーけど、お休み、空野さん。」
「葵でいいよ。おやすみ。」
 ガサっと、葵ちゃんが立つ気配がした。耳をドアから離して、あたりを見ます。隠れるところはどこにもなくって、あるのは自動販売機だけだった。自動販売機って、タダだっけ。
そっと部屋から離れると、緑色に光ったランプが、規則正しく4つ点滅していた。この時期は、温かいが4つみたいで、冷たいが3つ。冷たいのは全部赤く点滅していた。コンポタとレモンティーとコンソメと野菜スープの中から、コンポタの緑色のボタンをポチっと押した。紙コップはすぐにパコンと落ちてきて、機械たちはコンポタをせっせと作り始めた。

「さくらちゃん、こんばんは。コンポタにしたんだ~。」

やっぱり葵ちゃんか。話してたのって。この時間、用がないとこっちには来ないもんね。
葵ちゃんはあたしが、そんなことを思っているとは知らず、自動販売機を熱心に見つめていた。

「炭酸系、売り切れかぁ。」

「食堂のはどうかな、あそこ種類豊富だし。」

せかすように、葵ちゃんを見ないで言葉を出した。サイアクだな、あたし。

「…だね。じゃぁ、おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

作り笑いを浮かべて、葵ちゃんを見送る。早くいって!なんて、葵ちゃんは思わないだろう。天使のような子だから。たとえ、ライバルだとしても…。

「さくら、どうした?」

低い、優しい声がした。安心して、涙がぽろぽろと流れ出す。見つけてくれた!嬉しいなんて簡単なことばじゃないもっと最上級なことば。

「まぁ、飲めよ。」

ゆげがいい感じに揺らめき、とてもいいにおいがする。あの、懐かしいにおい。

「これ、あたしが押したのだけどね。」

涙をぬぐって、コンポタを受け取る。ふしぎだな。涙こんなに早く収まるなんて。魔法みたい。

「あのさ、バカみたいな話なんだけどさ。」

「笑わねーよ。」

鉄角はニっと笑うと、野菜スープのボタンを押した。

「…葵ちゃんとさぁ、何を話していたの?」

悪い返事は嫌だと、下を見て目をギュッと閉じる。「お前には関係ない」とか言われっちゃたら、また泣いちゃうかもしれない。

「ああ、あれはな、空野が相談しに来たんだよ。心配することねーぜ。」

「心配することないって!葵ちゃんはさあ、キャプテンがいるじゃない!よりよって、鉄角だし!」

言い終わったところで、ハッとする。言い過ぎた。やってしまった!

「心配いらねーよ。俺は空野だって、森村だって下の名前で呼ばねーよ。元カノだって今は呼ばない。」

「えっ!彼女いたの?」

驚きで、顔を上げると、鉄角は優しい笑顔で「やっと、顔を上げたな」と言って、頭を優しくなでた。

「やきもちとか、さくら らしくないよな。」

と言って、野菜スープをひとくち飲んだ。あたしも続いてひとくち飲んだ。程よい甘さが、口の中に広がってっていく。でも、何かが物足りない気がした。

「おいしいね、スープ。」

「飲むか?」

鉄角のスープは、野菜ス-プだったはず。苦手な飲み物。でも、おいしそうだ。飲んでもいいかも。

「はい、じゃぁ取り換えっこ。」

紙コップを交換すると、互いにスープをすすった。苦くなかった。スープは程よい塩の味と野菜の味が、ベストマッチしていた。初めてこんなにおいしい野菜スープを飲んだと思う。

「不思議だよな。コンポタさ、俺苦手だったんだよ。でもさ、いま改めて飲んでみたら、あれ?おいしいなって。」

「魔法みたいね。」

___みなさん消灯時間です。___

「時間ね、今日はありがとね。野菜スープもらっていくね。」

「ああ」

クルっと背を向けてスープを飲み干すと、スキップを始めた。今日、すごく楽しかったから。

「あのさ、名前さ、真でいいよ。」

「…!」

頬がどんどん赤くなっていく。隠すため、全力で自室に戻る。空っぽになった、必要のない紙コップを握りしめながら。

 

「真くん、大好きだから。」

 

紙コップに向かって、そう小さくつぶやいた。

 

 好きな人と、一緒に何か食べたり、飲んだりしたらなんでもおいしくなりそうだな、っていう非リア充の妄想でした☆