鉄さく小説
Even if you do not remember it
~たとえ、あなたがそれを覚えていなくても~
それは十年前のこと。あの頃は私は彼が好きで、彼は私が好きだった。いわゆる両想い。会った時からこれまでずーと好きだった。この思いは忘れることなく、私の胸の奥に花を咲かせていた。でも、あの頃の私たちはまだ子供で、一生なんて誓えなかった。だってそうでしょう?今キミの隣にいるのは誰?
~★~
サザナーラ戦に見事勝ったイナズマジャパンは、次の火惑星ガードンへ向かっていた。宇宙は相変わらず真っ暗。自室で膝を抱えてサンドリアスとサザナーラについて考えていた。サッカーバトルに負けちゃったのだから、サンドリアスとサザナーラの住民は、生き残ることができない。そんなの嫌だ。もしも、私たちが負けてしまったら、地球の住人が生き残れなくなってしまうから。勝負なんだから、しょうがないよ。なんて考えることは出来なかった。今、サンドリアスとサザナーラの住人は生きているのだろうか。こんな時、鉄角がいてくれたらこんな気持ち忘れられるのに。そんなことを考えていると、静かな自室から楽しげな昼食を告げるチャイムが鳴り響いた。
「早く行かなくっちゃ」
静まり返った自室に、私の弱気な声と弱い足音が妙に大きく聞こえた。弱いな、私。だから鉄角だって私に興味がないんだ。わかってるよ、そんなこと。いつの間にか瞳から流れる温かい水滴は頬に触れ、床のカーペットを濡らした。
「こんなのじゃ食堂にいけないよ。」
弱虫なあたしはしゃがみこんで、顔を手で覆った。カーペットに落ちていた水滴が、今度は私の手に吸収されることなく、零れ落ちていった。新体操でも、サッカーでも私は結局弱気になって、いい結果が出せずに終わってしまう。今回のサッカーは、もうそろそろ負けてしまうかもしれない。私のせいで。
それから、何分か経って、涙が少し落ち着いてきた。立ち上がろうとしたら、人の気配がしてその行動をやめた。
「おい、さくら。いるのか?」
ドアをゴンゴンと2回たたきながら、優しい声で、私に問いかけた。これは、鉄角のものだとすぐにわかった。優しい声と、ゴンゴンと強くたたく力がそうだから。
「いるわよ。」
涙声は隠しきれず、そのまんま出てしまう。情けないな、鉄角の前なのに。今度は顔を腕で覆うようにした。今鉄角がどんな顔しているのかは、だいたい見当がついた。困っているだろう。涙声が聞こえてしまったから。
「調子が悪いんだろ?おばちゃんにおにぎり頼もうか?」
「まあ、そんなところかな。もうみんな食べちゃったものね。」
顔を上げてそう言うと「はは」と楽しそうな声が聞こえた。「何で笑ってるのよ」なんて言い返したかったが、それはやめておいた。
「じゃあ、持ってくるから待ってろよ。」
そう告げると、走っていってしまったようだった。立ち上がると、ベッドに腰を掛けた。優しいな、いつも鉄角は。そのさりげない優しさが私は好きなんだよ。どうしようもないくらいにさ。
ベッドに背中を預けると、目をつぶった。彼が来るのを待って。
「さくら、入るぜ。」
カチャカチャと食器の音をたてた。言う前から入ってるじゃないのなんて思いながら、体をゆっくりと起こした。鉄角は私を見て「大丈夫か?」と心配そうに笑った。
「見ろよさくら、おかかとツナマヨと鮭だぞ。」
嬉しそうな無邪気な声に、ドキリと胸が高鳴るのを感じながら、白の真新しい食器に積まれたおにぎりは、一人分にしては多かった。
「多くない?」
「ああ、これか」
頭をかきながら鉄角は、「俺も食べようと思って」と言った。それに思わず、声を上げて笑ってしまった。
すると鉄角は、当然のように私の隣に座ると、「よかった。元気じゃん」と、満足そうに笑いながら、おにぎりを食べ始めた。私は、ツナマヨだと思われるおにぎりを手に取ると、そっと小さな声でいった。
「たぶん、鉄角が隣にいるからだよ。」
「…はい?」
反射的に鉄角は私のほうを向くと、頭にハテナを沢山浮かべて私をじぃーと見た。
「簡単に言うとね、う~ん、そうだなぁ。私にとって鉄角はトクベツな存在なんだってこと。」
「お、おう。そうか、俺もだぜ。でも、俺はさくらと違うと思うぜ。」
「え?」
少しの間、自室は静寂が訪れた。続く言葉に期待してしまうあたし。まさか、ね。考えただけで、顔が火照てしまう。
「俺は、さくらのことが好きってことだ。」
十年前のあたしは、それだけで満足してしまい、別れる時まで、友達の延長線だった。でもさ、別れる時さキミは言ったよね。‘‘それぞれの夢を達成したらさ、俺とさ永遠を誓ってくれないか?“ あの時とっても嬉しかったのに。今キミの隣にいるのは誰なの?ねぇ、教えてよ真君__